教えてくれるのは

金村盡志

金村 盡志(かねむら つくし)
1986年生まれ。中学生から吹奏楽を通してトランペットの演奏を始め、高校生からジャズに目覚める。その後、原朋直氏(tp)に約4年間師事し、2010年からニューヨークのThe New Schoolに設立されたThe New School for Jazz and Contemporary Music部門に留学。Jimmy Owens(tp)氏などの指導を受け帰国し、関東近郊を中心に音楽活動を開始。金村盡志トランペット教室でのレッスンを行いながら、精力的に活動を続けている。

初心者向けのトランペットの選び方

正直、ネット上にありふれているタイトルではありますが、ざっと目を通してみるとベルが1枚取りだの2枚取りだの、素材があーだこーだと、正直トランペットを始めたばかりの人が体感できるかどうか微妙なスペックを取り上げて、だらだらと書き連ねているだけの記事が多いように感じてしまいます。

確かにトランペットを選ぶ上で細かなスペックは無視できないものではありますが、こういった記事を必要としているであろう「初心者向け」というくくりで考えたとき、それらのスペックは単に彼らを惑わせるだけのような気がしてしまいます。

楽器屋さんにとっては、スペックの違いを強調してより高い物を売る方がいい商売にはなるのでしょうが…。

今回はそんなことを考えたうえで、ジャズトランペッターである僕が考える、初心者に向けたトランペットの選び方をお教えしたいと思います。

まずこの記事を読んでいただく上で、覚えておいて欲しいことがあります。

それは書き手である僕がいずれの楽器メーカー、楽器店からもスポンサードされていないということです。もちろん僕自身が楽器を売ったりしているということもありません。

ようは、利害関係なく好きなことを書けるということです。

それでもまあ流石に日本で非常にメジャーな某メーカーのトランペットは吹きやすいけど表情に乏しくて吹いててつまらないとか、某楽器店がオリジナルブランドとして作っている高級志向(少なくとも値段は)のトランペットは全くもってそんな値段出して買う価値がないとかそんな本音は恐ろしくてとても書くことはできません。

とにかくこの記事はネットでありがちなスポンサー記事ではないということを前提にお読みいただければと思います。

さて、トランペットをこれから始めたい、もしくは始めたばかりだという方はどのような楽器を選ぶべきであるかという話ですが、ここで重要になるキーワードはモチベーションと予算です。冒頭に書いたような理由から素材の違いなど細かなスペックについてはなるべく割愛したいと思います。

よくネットの記事なんかでは、初心者でも予算の限り高いグレードのトランペットを購入しましょう、と書いてありますが、この考え方は一理ないわけではありません。

やはり初めから一番安いモデルではなく、そこそこのグレードのものの方がモチベーションも上がるでしょう。楽器の品質だって安価な物よりいいはずです(最近は例外も増えてきましたが)。

そもそもそういうことを謳った記事を載せているのって、楽器屋さんのウェブサイトだったりすることが多いような気がするんですが、まあ偶然ですよね…。

とにかく、トランペットを長く続けたいという意思がよっぽど固い方はそのような選び方をしてみるのもよいかと思います。モチベーションは練習にも大きく影響しますからね。

楽器ケースを開けただけでワクワクするような、素晴らしい楽器と出会えたなら練習も楽しいものになります。そして、それだけ本気で熱中することができるでしょう。

トランペットをとりあえず始めてみたいという人は

一方、最近始めたばかりでこれから続けていけるかどうかもわからないトランペットという楽器に、今使える予算の全額を突っ込むというのはなかなか勇気がいるものですよね。

幸いにしてトランペットという楽器は、他の管楽器に比べて安価に手に入れることが可能な楽器です。特に近年では中国のメーカーだったり、日本や欧米のメーカーがやはり中国や台湾の工場に作らせた安いトランペットが多く出回っています。

とにかく安くというのであればネットで1万円台で新品のトランペットが購入できたりします。
じゃあ、みんなそういうトランペットを初めに買えば良いじゃん、と思われるかもしれませんが、残念ながらそうはなりません。

僕自身1万円台で売られているトランペットを実際に吹いたことがあります。しかし、とにかくピストンの作りが雑なのです。具体的にはピストンの動き自体が渋い、下手をするとピストンを押したらかなりの確率で引っ掛かって戻ってこないことがあるということです。また酷いものでは音のツボ(音がフォーカスするポイント)が、ある音域において極端に狭いものも存在します。

音のツボは少し慣れたプレーヤーが気にする部分だったとしても、トランペットのピストンの動きが悪いという問題は初心者であっても相当なストレスになると思います。

練習をしていてピストンが引っかかるたびに練習を中断していては、練習時間をロスしてしまいますし、結果として効率よく上達することができません。

また安価なトランペットは製品のばらつきも多く、運良く当たりを引けば良いかもしれませんが、そうでない場合は目も当てられないでしょう。

一概に値段で言い切ることはできませんが、個人的な実感として新品で3万円を切るようだと品質がより一段と落ちるような気がします。

ちなみに、トランペットという楽器は落としたりぶつけたりしない限り簡単に壊れる楽器ではありません。ただし、もし修理が必要になった場合はあまりにマイナーなブランドのものだと修理部品がないために、修理依頼を断られてしまうこともあるようです。

特に、たまにトラブルの起きることがあるウォーターキイ(ツバ抜き)のコルクや、バネが壊れた場合に修理部品がないとかえって高くつくことになるかもしれません。

では安いトランペットをなるべくハズレを避けて手に入れるにはどうすればいいのか

外れのトランペットを選びたくない場合、どうすればいいのか。それは楽器店へ実際に出向き、あなたが比較的安いと思うトランペットを店員さんにショーケースから出してもらって、実際に触ってみましょう。いくら安いからといってネットで注文なんてもってのほかです。

ピストンを素早く何度も何度も押してみて、軽くスムーズに動くようなら大丈夫です。ヤマハの一番安いトランペットも一緒に出してもらって比較してみると良いかもしれません。

もし途中で引っかかって戻ってこないことが頻繁にあるようなら、同じ型番の別のトランペットか全く別のトランペットを試してみましょう。

もしトランペット経験者に同行してもらえるのならなおいいです。その人に実際に吹いてもらって感想などを聞いてみましょう。

少し話を具体的にしていきましょう

初心者が新品でなるべく安くトランペットが欲しい場合、もし6万円強出すことができればヤマハやBachのエントリーモデルのトランペットが手に入るかと思います。

ちなみに場合によってはその値段より安く売っていることもあります。たまに見かける、いわゆる新品だけどちょっと傷が付いちゃったので値下げしているものは狙い目です。

まずヤマハは、とにかくピストンの精度が良く、よほどのことがない限りハズレを掴むことはないと思います。

最も安いスタンダードクラス(以前はスチューデントモデルと呼ばれていたような気がしますが)とはいえ、ピストンだけでなく、軽い吹奏感と明るめの音色、そしてクイックなレスポンスが得られます。

同じく有名メーカーであるBachTRシリーズという廉価なモデルを製造しています。

以前このモデルは中国の工場で作ってるからダメだという噂を聞いたのですが、実際に吹いてみたところ、値段を考えたらむしろお買い得という印象です。僕自身Bach使いなので、若干の贔屓目があるかもしれませんが、Bachらしい豊かな響きと初心者にも扱いやすいレスポンスの良さを兼ね備えた素晴らしいトランペットだと思います。

とりあえず2大有名メーカーのトランペットを紹介しましたが、もし予算が許すようであればこの辺のトランペットを入手されるのが最も安全かと思います。

中古のトランペットってどうなの?

中古のトランペットとなると、これまでに書いてきたような有名メーカーのものを探すことがほぼ必須の条件です。

トランペットの選定に自信のある人に同行してもらえるならともかく、中古楽器となるとやはりそもそもの設計がしっかりしている有名メーカーのトランペットを選択する方が無難でしょう。

基本的には、中古品は初心者にとってかなりリスキーなトランペットの買い方であるということも覚えておいてください。

いずれにしろ、一番最初に買うトランペットはいわゆるエントリーモデルから購入し、そこそこ吹けるようになって自分の楽器に不満を感じるようになったり、目指す方向性が見えてきたりしたら、その時に上位機種に乗り換えればいいのでは、というのが僕の考えです。

もしヤマハやBachなどのような一流メーカーのトランペットであればエントリーモデルをそのまま長年使い続けたとしてもかなりのところまでは演奏者の要望に応えてくれるはずです。

さて、ここまでは初心者向けの一般的なトランペットの選び方について書いてきました。

ここからは初心者向けという枠にとらわれず、いわゆるジャズ向きのトランペットを探してる方へ向けて少しだけ役に立つ情報を書いていきたいと思います。

「ジャズに向いているトランペット」は人によって想像する特徴が違う

まず最初に言いたいことは、楽器屋さんの店員の言う「このトランペットはジャズ向きです」はあまり鵜呑みにしてはいけないということです。とはいえ決して店員さんが嘘をついているという意味ではありません。

一般的に楽器屋さんでジャズモデルなどと銘打って販売されているトランペットの多くが、ラウンドクルークだったり、リバースだったり、支柱が少なかったり、という傾向があるように思います。

ごく最近になってヘビーウエイトのものもジャズ向きといって宣伝されるようにもなっています。

あなたがジャズと聞いて思い浮かべるのはどんなシチュエーションでしょうか?

例えばLouis ArmstrongとMiles Davisはジャズトランペット奏者ですが、演奏スタイルは全く異なります。

僕の知り合いや生徒さんには「店員さんにジャズ向きだと言われたのでこれを買いました」という方がたまにいらっしゃいますが、そもそもその人と店員さんの頭の中で想定しているジャズの演奏スタイルは一致しているのでしょうか?

例えば上に述べたようなラウンドクルーク、リバース、支柱が少ない(ライトウエイト)タイプであれば主にビッグバンドでの演奏が想定されるでしょうし、逆にシートブレイスとか単にヒレと呼ばれるようなパーツや重めのボトムキャップが多く付いているヘビーウエイトなものはコンボでの演奏に向いている傾向があります(あくまでも「傾向」ということです)。

そう、大きなくくりだけで考えても、人がジャズと聞いて想像するものは、ビックバンドかコンボかという違いもあるんです

もちろん、もっと細かな部分では想像もつかないほど特徴の異なるジャズのイメージが存在します。

ですからまず大事なことは、ジャズと言ってもさまざまな演奏スタイルがあり、自分はジャズについてどのようなイメージを持っているかということをはっきりとさせること。

その際、自分の好きなトランペッターの使用楽器を知ることは参考になります。

このウェブサイト(http://abel.hive.no/trompet/playerhorn/)では時代やジャンルを問わずさまざまなトランペッターの使用楽器とマウスピースが載っています。

信憑性については全て確かめることは困難ですが、決して精度の低いものではなさそうです。

このリストには既に入手困難なトランペットや非常に高価なものも含まれていますが「自分はこういうトランペッター(もしくは演奏スタイル)に憧れてるんだけど、このくらいの予算でこんな感じのトランペットはありませんか?」というところから店員さんとのコミュニケーションを始めるということはお互いにとって円滑により良い楽器を見つけるための手助けとなるはずです。

※金村さんの使用トランペットなどのトピックもあるインタビュー記事はこちらから。